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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1171号 判決 1949年2月10日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人等三名の辯護人坂本泉太上告趣意第一點について。

舊刑訴第三六〇條第一項に依れば、所論のごとく、有罪の言渡を爲すには、判決書において罪となるべき事実を判示することを要する。蓋し、その趣旨とするところは、法令を適用する事実上の根據を明白ならしめるためである。

そして罪となるべき事実とは、刑罰法令各本條における犯罪の構成要件に該當する具體的事実をいうものであるから、該事実を判決書に判示するには、その各本條の構成要件に該當すべき具體的事実を該構成要件に該當するか否かを判定するに足る程度に具體的に明白にし、かくしてその各本條を適用する事実上の根據を確認し得られるようにするを以て足るものというべく、必ずしもそれ以上更にその構成要件の内容を一層精密に説示しなければならぬものではないといわねばならぬ。

そして、刑法第一八五條所定の賭博罪並びに身分に因るその加重犯たる同法第一八六條第一項所定の常習賭博罪における各賭博の犯罪構成要件は「偶然の勝敗に關し財物を以て博戲又は賭事を爲す」のであるから、これに該當する具體的事実を判示するには、當該所爲が右構成要件に該當するか否かを判定するに足る程度に具體的であり、從って同條を適用する事実上の根據を確認し得れば、差支えないものといわねばならぬ。そして、原判決は、論旨摘録のように「被告人等は外數名と共に花札を使用し、金錢を賭け俗にコイ々々又は後先と稱する賭博を爲したものである。」と判示したのであるから、その判示は、當該行爲が同罪の構成要素たる「財物」に該當する金錢であること並びに他の構成要素たる「偶然の勝敗を決すべき博戲」に該當する俗にコイ々々又は後先と稱する數名の當事者が花札を使用して勝敗を爭う博戲であることを明白にしているものと言うべく、從ってその判示を以て前示法條を適用する事実上の根據を確認せしめるに足るものとするに妨げない。されば、それ以上更に財物たる金錢の種類、數額若しくは所論のように、その博戯の手段方法等を一層精密に判示しなかったからと言って賭博の判示の理由に不備の違法はないものといわねばならぬ。但し舊刑訴第三六〇條第一項は、同第四九條第一項所定の裁判の理由を有罪判決の理由において具體的に示すべき最小限度の要件を規定したもので、裁判の理由とは、主文の因て生ずる理由に外ならないから、有罪判決の理由には、罪となるべき事実の外主文の因て生ずる量刑の事由をも示すを妥當とすべきこと勿論である。されば、有罪判決の理由には罪となるべき事実の外犯罪の原因、動機、手段の特殊性、結果の輕重等をも判示するを相當とすべく、本件のごとき賭博罪にあっては時として、財物の種類、數額、賭博方法の詳細、勝敗の回數、結果等をも判示するを適當とすることがある。殊に常習賭博においては、賭金の數額、手段方法の如何、勝負の回數、結果等によって常習を認定判示し得べき場合あることを忘れてはならない。しかし、これらの判示方法はいずれも妥當の問題であって違法の問題ではない。それ故論旨は、その理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって舊刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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